4月29日カミングライダー最終回

COMIN′KOBE当日

ついにこの日が来た。COMIN′KOBE当日。
当初の予定では、前日神戸入りをし最高のコンディションで臨むつもりが、最悪のコンディションで迎える朝。事故で痛めた左の鎖骨は痛みを増す朝。
一睡も出来ず雨の駅前で迎えた夜明け。

並走ランナー風次実行委員が
「俺もう出演バンドを出迎えにCOMIN'KOBE会場に一足先に入るから最後にこの旅で作った曲を今聞かせてくれ」
と。
僕はみんなの思いをのせた新曲「光の轍」をこの21日間苦楽を共にしてくれた恩人に聞かせた。

曲が終わって一言。「お前がずっと言ってた『みんなの気持ちを自転車に載せて神戸まで持って行く』ってのがこれか？がっかりした。」と。
さらに「ただ、旅先で出会った人の言葉の寄せ集めやん。そうじゃなくて皆の気持ちはもうお前の中にある。だから自分の言葉で紡いでゴールで待ってる人に伝わるように届けろ。」

そして実行委員風次さんの最終判断は
「間に合わなくてもいいから神戸で待ってる。何時間でも何日でもかけて来い。お前のステージは用意しといたる。」
と言って降りしきる雨の中勢いよく走り去って行った。

そして目の前で大転倒した・・。
多分ワザとだろう。こんな時にまでユーモアを忘れない。気づけば僕はピンチの最中クスッと笑っていた。

しかしこの旅初めての一人ぼっち。不安と孤独が雨と一緒に振ってくる。
作った新曲は言われた通りで、人の言葉で埋め尽くし、様々な人のそれぞれの考えであるが故に伝えたい事がまとまっていない。だから旅をした自分にしか意味を理解できない。
ゴールで待ってる人には届くはずもない。沢山の人に優しくされてチヤホヤされて自分を見失っていた事に気付いた。
ここまで来れたのは自分の力じゃない。

全国のライブハウスに泊まれたのは太陽と虎のおかげ。
ゴールでみんなが待っててくれるのはCOMI'KOBEのおかげ。
ここまで走ってきたのは後ろの道で出会った人たちが、次の街へと僕と言うバトンをリレーしてくれたおかげ。

勘違いしていた自分の愚かさを知る。

もう一度、旅先で出会った人たちのメッセージを読み返す。友達からのメールを読み返す。ゴールで待っていてくれる人たちのツイッターを読み返す。
なんで僕に優しくしてくれたんだろう？

4月29日AM8：00曲を作り直すことに決めた。
あと9時間。

雨の中ギターを弾き続ける。左鎖骨の痛み、襲ってくる睡魔。沸き立つ思いはあるが言葉がメロディに重ならない。
焦りと不安と痛みの極限に立たされどうしようもなかったその時、先に出発した風次さんから一通のメールが。

「ライダーよ。迷ったら走れ。」
「ゴールに答えはない。だいたい道の途中なんかに転がっている」

最後の力を振り絞りペダルを漕ぎ出す。

もう、痛みや寒さや疲れは感じなくなっていた。ただ漕ぐと言う何万回転もしてきた単純作業に安心すら感じ、嬉しくてただただペダルを漕いだ。

後ろには走らない。方向はわかる。だったらいつかは辿りつける。
尼崎の境目、武庫川まで来た僕は橋の下でノートを開き自分の言葉を書き殴った。そしてギターをかき鳴らし続け１曲の歌にした。
あと20km。ゴールは逃げない。逃げてたのはいつも自分だった。誰かのせいや何かのせいにして悲劇のヒロインを気取るのはもうおしまい。
自分が変われば世界が変わる。

そこからはどうCOMIN'KOBE会場に辿り着いたかはあんまり覚えていない。
神戸市の看板を見た事も、ポートアイランドの赤い橋を越えた事も。

気がつけば仮面ライダーの主題歌が流れ始めていた。

小さな頃から聞いていたこの曲。自分の気持ちによってこんなにも歌の聞こえ方は違うのかと痛感する。
今日の僕はカミングライダー。
並走ランナー風次さんが一言「ただのダジャレや、本気のギャグや。さあ行こう。」最後の先導をされゴールステージへとペダルを漕ぐ。
ついにゴールが見えた時、あんなに目指したゴールなのに急に終わりたくない気持ちがペダルを迷わせる。視界も悪い。

今日一番の豪雨の中に東北で出会った人の姿を見つけた。ふるさと長崎の仲間を見つけた。そして神戸で待ってくれてたみんなの姿を見つけた。

もう迷いは無い。
待っててくれた、駆けつけてくれた、人たちの前でゴールテープを切りたい。
神戸までみんなが運んでくれた。
走る前の道は不安だらけだったのに、通り過ぎた後ろの道には仲間がたくさんいる。日本が小さくなった。いつだってどこだって自分の意思で、自分の足で歩ける。
ゴールテープを切って仮面を外し本当の自分で歩き出したい。

雨と風の中ステージに上がる。ヒョウは降らない。

僕は目の前のゴールテープに体を預けた。
ものすごく丈夫な布で中々切れなかったから勢いよくゴールが出来た。ありがとう。

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さあさあ
誰よりも早くCOMIN'KOBEを目指して家を出た謎の男カミングライダー。
誰も助けられない、誰かに助けられてばかりのライダーが、
岩手県盛岡発→神戸着の1200kmのMusicRun!!を駆け抜け見た景色を今あなたに届けます。

最後のカミングライダーショーの始まりです。

-おしまい-

SET LIST
1.スマイル
2.郷唄
3.MUSIC RIDER(新曲)
4.自転車大放浪記

カミングライダー2014：井之上惑星 -inoueplanet-